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enchant.jsを世界へ! 英検四級の僕がヨーロッパで台本なしの講演に挑戦してみた顛末

いろいろあって、いま、ポーランドに来てる。
ワルシャワ。ポーランドの首都だ。

この国は日本の人口の半分しかいないのに、日本語よりレアなポーランド語が使われていて、そのポーランド語というのは、英語やイタリア語、フランス語なんかとは似ても似つかない。

アルファベットでさえ良く知らない。
道の名前を見ても読み方が解らない。

挨拶は「ドン・ジブリ」
ありがとうは「ディェンクゥイェン」

観光客の英語すら通じる相手も少ない。
そんな国にやってきた。

成田から数えて、はるばる18時間。
何をしにやってきたのか、と言うと、それはもちろん、我らがARCが開発したenchant.jsの売り込みに来たのだ。

そう、ここワルシャワでは今日まさに、世界で初めての「HTML5 ゲームカンファレンス」が開催された。

その名も「onGameStart

世界中のHTML5開発者が集まり、自作のゲームエンジンを自慢したり、マネタイズについて本気で考えたりするイベントだ。

僕はenchant.jsを普及させるため、AWESOMEスポンサーとして、いの一番に名乗りを上げた。
その他にAWESOMEスポンサーとなったのは、Microsoft、BlackBerry(RIM)などだ。

スポンサーになった理由はいろいろある。

日本の技術というのは、Rubyのような特殊な例外を除けば、海外では存在すら無視されがちだ。
シリコンバレーの連中はニコニコ動画もはてなもTogetterも知らない。知る必要もない。それは日本人の多くが中国やインドで大人気のWebサービスに興味を持たないのと同じだ。

それに興味を持つのは投資家とか、よほど熱心なサービス開発者だけだろう。

彼らはシリコンバレーという巨大な井戸の中のカエルなのだ。

今年の春、まさに地震が起きたそのときに僕はテキサスのイベントに出展していたけれども、やっぱりエンドユーザを対象としたWebサービスでいきなり存在感を獲得するというのは難しいことを痛感した。

しかし技術者は、それがどの国で作られた技術であるかどうかに関わらず、優れた技術を好んで採用する。

フィンランドで開発されたLinux、スウェーデンのMySQLなど、枚挙に遑がない。

それがどの国で作られたかは技術者には関係ない。彼らは超国家的テクノロジーカルチャーとでもいうべき、より大きな存在に属しているからだ。

だから、海外進出の橋頭堡を築くには、まず技術者たちに我々という存在を知ってもらわなければならない。

全てはそこからだ。

そういうわけで、その「世界初」となるイベントで最も高額なスポンサー費を払うことにしたのだ。そうすれば、海外から見れば、うちはMicrosoftと並ぶ大きなスポンサーに見える。

スポンサーになったことで、とりあえず僕が喋る枠は作ってもらう事ができた。

しかも、一日目の最後。
一日の締め括りとなる大事なセッションだ。

同じAWESOMEスポンサーであるMicrosoftのセッションやBlackBerryのセッションは二つ同時に開かれる一般セッションと同じ扱いだ。

冷静に考えると、彼らもこんなわけのわからない東洋の会社にそんな大役を任せるなんて(いくら大口スポンサーとはいえ)なんて冒険的なことをするんだろう、と思った。

そして朝、ついにイベントは始まった。

会場は超満員。

向かって右側にenchant.jsのロゴマークが!

日本から持って行きましたよ!これ

パンフレットにはenchant.jsと9leapの紹介

そして僕も持ってない、enchant.js特製シールの配布など、なるほど、さすがAWESOMEスポンサーだ、という扱い。というかMicrosoftよりも優遇されてたんじゃないの?日本からわけのわかんない会社がやってくるからサービスサービス!ということだったんだろうか。

しかし正直、想像してなかったほど多くの技術者が世界中から集まっていた。

シリコンバレーはもちろん、東海岸のボストン、スペイン、ノルウェー、フランス・・・などなど。しかしアジア人はどうやら僕たちだけみたいだった。

僕たちは、それはそれは浮いていた。

想像してみるといい。

国内の200人規模のカンファレンス。全国から人が集まる。
そこにたった三人だけ見慣れない黒人が混じってる。

自分たちには全く解らない言葉で会話して、端っこのほうでニヤニヤしてる。

怖くて話しかけられない。

僕らはちょうどそんな感じだった。

それで僕は日本での他の重要な仕事・・・会社としての経営課題とか、なんとか・・・そういうものに追われていて、ほとんどろくにプレゼンの準備をしてこなかったことに気づいた。

僕はこれまで、アメリカで開かれる学会やカンファレンスには数多く参加してきたけれども、ヨーロッパで参加するのは初めてだった。

人種のるつぼ、という表現がぴったり来るこうした国際学会では、みんな当たり前のように英語で会話している。

が、その英語は決して上手い方ではない。というか、下手だ。

スカンジナビア訛りだったり、スペイン訛りだったりして、聞き取るのにものすごく疲れるのだ。それでも彼らはまるで生まれたときから英語しか喋っていない、みたいな顔をして平然と英語で会話を続けるのだ。

というのも、世界で母国語で大学の授業を受けられるのは日本とアメリカとイギリスだけだと言われていて、他の国は全て英語のみで授業をするのだそうな。

だから彼らは大学やこうした国際学会では英語で会話するように訓練されているらしい。
もしかするとここで母国語で会話するというのは非常に無作法なことなのかもしれない。

僕は英語が苦手ではないが、かといって得意な方でもない。

英語が苦手、というのは技術者として、またIT経営者として、根本的な欠陥だと思う。だから僕は英語で書かれた文章を呼んだり、英語のスピーチを聞いたり、もちろん自分が英語を話したりすることに抵抗はない。そういう意味で、僕は英語が苦手ではない。

けれども、他の国々の人のように、「オレの英語は正しい」と堂々とテキトー英語を喋るほどの度胸はない。だから得意というわけでもない。

実際、ヨーロッパで生まれ育った人たちにとって、英語というのは、僕らが関西弁や東北弁を真似するようなもので、下手でも通じればいいや、という感じらしい。

けど日本語で育った僕にとって、英語はいつまでたっても自分のものにはならない。
それは仕方の無いことだ。

僕はせいぜい、これまでこの素晴らしい日本語を 作ってきた偉大なる先人に敬意を表して、日本語でしか考えられないようなことを考えるだけだ。思考は言語に制約を受けるからね。

残念ながら、アメリカに住んでも、アメリカ人の友達が居ても、僕はいっこうに英語が得意にならない。文法はめちゃくちゃだし、発音は怪しい。

でもコミュニケーションをとる方法が無くはない。
発音が怪しければ、言いたい事を書いたスライドを用意すればいい。

文法が不確かならば、喋らなければいい。

そう。「高橋メソッド」だ。

言いたい内容は全てスライドに書いて、僕はそれを読み上げるだけ。
僕が言いたいことはスライドを見れば伝わっているから、あとはそれをどんな抑揚をつけて読むかということに集中すればいい。

スライドそのものはもちろん英語で書く必要があるけれども、今の時代はGoogle翻訳という非常に便利なツールがある。

最近覚えたんだけど、Google翻訳で自分の望むフレーズを英訳するにはコツがある。

例えば「子供達はプログラミングを覚えると、水を得た魚のように夢中になってプログラミングをしました」という台詞を言いたいとする。

これはかなり難しい。

実際、Google翻訳すると無惨な結果になった。

こういうややこしい台詞は、僕の文章には良く登場するが、機械翻訳との相性が良くない。

「子供達がプログラミングを覚える」と、「夢中でプログラミングをする」が「水を得た魚のように」という慣用句で無理矢理ひとつになっているからだ。

そこで高橋メソッド化するときには、これを別々の台詞として別々のスライドに分けてしまう。

「子供達はプログラミングを覚えた(The children learned to programming)」と過去形にして、次のスライドで「彼らはプログラミングに魅了された(They were attracted to the programming)」と分ける事にすると、物語的になって意味が通じ易い。

紙芝居のように、または台本のように「何が起こったか」を時系列で話して行くと、複雑な英語表現を考えたり覚えたりしなくても、自分の伝えたい事を伝える事が出来る。

ここに必要なのは、英語とか日本語とか以前の、情動の表現だと思う。

僕の仕事は通訳じゃない。だからもとの日本語にこだわる必要は無い。
自分の言いたい事を英語で言い易いように言い換える事が出来る。

「英語で思考する」というのは、つまり母国語での表現はなにか、というのを一回忘れる事だ。

幸い、今はGoogleがある。

もし、万が一、翻訳がおかしくても「僕の英語が間違ってるとしたらGoogleのせいだよ(My English is bad. So since Google)」とでも言っておけばいい。少なくともこの業界では。

そんなわけで、他の参加者が非常にロジカルで字の細かい資料でプレゼンをするなか、僕だけ字がめちゃくちゃでかいプレゼンをすることにした。

とはいえはるばる地球の裏側まで来てわざわざ恥をかく事は出来れば避けたいから、英語で書いた僕のスライドを英語教師の資格を持っているHidemy先生にチェックしてもらった。

いくつか修正されたけど、まあGoogleのせいだからね。

この「Googleのせい」はマジックワードで、これさえ言っておけばたとえ自分の英語を批判されても凹まない。

よーし、準備万端・・・・とは言ってもねえ。

実際、最後のセッションだし、何人が聞きに来てくれるのかなあという不安も隠せなかった。

同行したショーヤマは「GDCの日本人のセッションになるとみんな英語が聞き取りにくいせいか、すぐ席を立ってガラガラになっちゃうんですよねー・・・そうならないといいですが」と恐ろしい事を言う。

ここやってまで来て誰も聞かないセッションをして帰るなんて悲しすぎる!
と心配したのも束の間、最後のセッションはやはり超満員。

僕は緊張で胃がキリキリするのを感じた。

これまで僕は海外で講演した経験は何回かあるけど、いずれも周到に用意された台本を読み、英語の先生につきながら発音練習を何百回も繰り返して、まるでロボットのように演じるだけだった。

去年はカンヌ広告祭というイベントでたった20分間喋るのに、2ヶ月の準備期間とまる一週間のトレーニングを必要とした。

しかし今日は、これまでのどの講演とも違う。

台本なしの本番勝負。練習もなし。

つまり、日本でいつもやっているようなスタイルで、一時間も喋り続けなければならないのだ。

スライドの数は83枚。

一時間話すには十分な分量・・・のはずだった。

時間になり、係員が僕に目配せする。

そうか、ここでは自分で始めなければならないのか。

よし、と拳をグーにして気合いを入れた。

「よし、本日最後のセッションを始めよう」
Ok, Let’s start the “last session” today

 

僕は会場を見渡した。
みんな不思議そうな顔をしている。

そりゃそうだ。

「この東洋人は何をしに来たんだ?」

そんな顔に見えた。

「でも・・・知ってると思うけど、僕は英語がそんなにうまくないんだ」
But….  You know , I am not so fluent in English

 

最初に仕込んだネタだ。これは多分今回誰もやってないからウケるだろう。

「だから、まずは英語じゃなくてまずJavaScriptで語ろうと思う」
So first, I talk in JavaScript, not in English

 

そこでおもむろにテキストエディタを開いて、enchant.jsのプログラムを書き始めた。

enchant.jsの簡潔さと解り易さ、好ましさはソースコードを見るのが一番だ。
そしてソースこそが雄弁にその技術の素晴らしさを語るのである。

それから、実行。

なんとバグッて動かない。

「おっと困ったな」
Ah!,oops!

 

しかしライブコーディングでバグるのは、前回のIVSで経験済みだ。
ここは冷静にコードを修正する。

ライブコーディングでライブデバッグをするのは、実はプレゼンテーションにとって有効だ、とあとから気づいた。

というのは、今回ここに集まったのは全員がJavaScriptのプログラマだ。
だから本能的にコードを見ていると、自分たちも一緒になってバグを探してしまう。

それはすなわち極めて短い期間にenchant.jsのプログラミングパラダイムを習得するということに他ならない。

そしてEventListenerのLが小文字になっていることを発見し、修正。

おなじみのクマが画面の左上から右に向かって走り始めた。
会場から思わず拍手と歓声。

このとき、僕の錯覚でなければ、彼らと一体感が生まれたように思う。
同じ問題に取り組み、解決した快感。

僕は会場を見て笑顔になって言った。

「どう?簡単でしょ?これがenchant.jsだよ」
It’s easy!  This is enchant.js

 

そこから自己紹介。
自己紹介は日本人の講演では疎かにされがちな部分だ。

しかし初めて見る外国人は、外見から年齢も想像できないし、全く異なる文化、社会で生きて来た人間が、どんな人間なのか知ってもらわない事には、この拙い英語を我慢してまで聞く価値があるのかどうか、彼らが判断できなくてはならない。

そのためにはまず、僕は彼らが傾聴するに値する人間だという事を最優先に説明しなければならない。

生い立ちからキャリア、現在の状況・・・そんなものを説明した。

それからARCの設立について。

そこでうまれた最初の成果がenchant.jsだってこと。

日本はいま、津波と地震、原子力災害で傷ついていること。

経済的なダメージと精神的なショックからいかに早く立ち直り、懸命に挽回しようとしているかということ。

それから9leapの話。

未来をつくるのは、子供達だってこと。

他の人たちのプレゼンと違って、僕のプレゼンは論理よりも感情に訴えかけるようなものだった。

というのも、僕はenchant.jsの技術的特徴についてダラダラ説明するのは意味が無いと思ったからだ。

enchant.jsに秘密はなにもない。
もしそれを僕が解説したとしても、面白みは全くないだろう。

ソースコードは公開されているし、扱い易い。

重要なのは、メッセージだ。

僕たちがenchant,jsに載せて世界に送りたいメッセージ。

それはプログラミングは素晴らしいってこと。

拍手と歓声。

僕は83枚のスライドをあっという間に読み終わった。

本当にあっと言う間だった。

早すぎた・・・早すぎた・・・ん?

時計を見ると・・・なんと20分しか経ってなかった。

なんてこった!!!

最近、20分くらいしかプレゼンをすることがなかった。

プレゼンの体内時計、みたいなのがあって、だいたいこのくらいの時間に終わる、というペース配分を無意識のうちにしてしまう。

とはいえ、83枚ものスライドを20分で消化してしまったのは、いくらなんでも緊張のし過ぎだろう。

最後のセッション。時間はあと40分も余ってる。

どうしよう・・・

うーん、仕方が無い。

「なにかご質問は?」
Questions?

 

さも当然のように会場に聞いてみた。

これは前々から自覚していることなんだけど、僕のプレゼンは論理よりも感情に訴えるタイプのものが多い。

だから、普段は質問が出ない。

だって、映画を見た後に、質問をするかい?
コンサートの後に質問する?

しないよね。
だって終わったら聞く方もやる方も疲れ切ってるからね。

コンサートや映画と同じように、聴衆の感情を上へ下へと揺さぶり、拍手を引き出す。そこまでが僕の講演者としての仕事だ。

だから普段は質問の時間を用意されていても、敢えて質問の時間をつくらないくらいの密度で喋ることにしていた。

しかし今回は予想外のハプニングだ。

なんと半分以下の時間で本編が終わってしまった。

そこで質問コーナー開始。

うーん、誰も質問してくれないかなー、失敗したなー、と思った。

日本人はただでさえ質問するのが苦手だ。

これは日本人の悪いところだと思うんだけど、質問しないのがカッコいいと思ってるフシがある。

しかし欧米では、きちんと質問できないということは、まともに聞いてなかったのと同じと見なされる。

日本だと講義を聞いて疑問をもったりするは頭が悪いから、と考える傾向があるのに対し、欧米では講義が万全であることはあり得ないから、質問を思いつかないのは頭が悪いから、と考える傾向があるようだ。

とはいえ、とはいえ。

僕は今回、欧米式のプレゼンをしなかった。
つまり論理的な話をしたのではなく、単に情動に訴えた。

講義というよりは大道芸に近い。
大道芸人に質問する人間はさすがに欧米にも居ない。

正直、いやな汗がダラダラ流れてた。

せっかくいい感じにまとめたのに、読むのが早すぎて台無しにしてしまった。

しかし今回の聴衆は、違った。

いろいろな質問をしてくれた。
それはとてもありがたかったし、暖かかった。

「enchant PROって何?」「ARタグ認識面白そうなんだけど」などなど、いろんな質問や感想を貰った。

「enchant.jsは英語版ドキュメントもあるの?」

 

そういう質問もあった。

 

「もちろんありますよ」
Sure!

 

僕は答えた。

「でも安心して。そのドキュメントを書いたのは僕じゃないから」
But don’t worry! I didn’t write that document

 

ここでも笑い。

「それに最高にいい知らせがある。ソースコードだよ。僕の英語よりマシだ」
And here is super news to you, You can read source code, better than my English

 

さすがに質問はわからないのものもあったので、そこはHidemy先生に助けてもらった。
なにしろ色んな方言、訛りがあるし、それに僕は英語が得意というわけではないからね。

講義が終わった後、たくさんの人が話しかけてくれた。

「プレゼン、面白かったよ!」

「僕は大学で講師をしてるんだけど、うちの生徒にenchant.jsを勉強するように言ってみるよ」

「ブログで紹介するよ」

「こんどボストンでHTML5の勉強会をやるけど、来ないか?」

 

嬉しかった。

やりきった、と思った。

そのあとパーティに出ようと思ったんだけど、あまりに疲れすぎてそのまま夕飯を食べて寝てしまった。

最高に疲れた一日だったが、最高の気分だった。

それが昨日の出来事。

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