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日本最大のゲーム開発者イベント「CEDEC」運営委員長 吉岡さんに聞く! CEDEC に懸ける想い (後編)

日本最大級のカンファレンス CEDEC の運営委員長である吉岡直人氏に、wise9 編集部が CEDEC にかける意気込みをお聞きしました。後編では、今回の CEDEC ならではの企画や、2月から始まった CEDiL に関するお話を中心に伺って参りました!


“Cross Border” の実践

――今年の基調講演というのが、「はやぶさ」の開発者の方だと伺いました。一昨年は富野由悠季氏(※18)をお招きするなど、ゲーム業界にあまり関係のない方を呼ばれていらっしゃいますが、その意図をお聞かせいただけますか?

今回、國中さん(※19)にお話しいただこうと思った理由は三つあります。一つ目は、「はやぶさ」の話はおそらくエンジニアリングの話になるだろうと思われるため、CEDEC のテーマとは一致するということです。

二つ目は、これは「プロジェクト」の話という事です。國中さんは大学の先生ですが、氏が中心となった「はやぶさ」のプロジェクトには「実体」があるんです。「いとかわ」という遥か遠くにある小惑星まで、先端技術を駆使して作り上げた宇宙船を一機飛ばして、砂や石を持ち帰ってくる。予算の制限など様々な障害がある中でそれを実現する、これって本質的にはビジネスと同じと思います。

三つ目は、「はやぶさ」というと川口マネージャー(※20)が有名です。もちろん川口さんの話も大変面白いのですが、CEDEC は開発者向けの場所です。だから開発の現場により近い方にお話をしていただきたかったんです。國中さんにお引き受けいただいたのは、実は僕ら的には大変喜ばしい事です。

――基調講演を聞いた人がそこから何かを学べるような方を選んでいるということですか?

それが狙いですね。実はちょっとずるい狙いもあって、國中さんや富野さんのように、他の業界でも有名な人を呼ぶ事で CEDEC の知名度を上げようと思ってるんです。知名度を上がれば、他の業界の方との対話も進むでしょうから。CEDEC というのは一年に一回発生するただのイベントであり、きっかけにすぎません。「この場所で何か知識が得られる」のような考えは、正直甘いです。勉強していくための人脈やきっかけやを作っていくのが、CEDEC だと思うんですよ。そのような考えの下、今まで「ゲーム業界」の中で見てなかったものをこれからの CEDEC はどんどん取り入れていく事になるはずです。

同様の狙いで、今回から「co-located event」という企画がスタートするんですが、今年は三つの団体をお呼びしています。
一つは九州大学がやってる「Math-for-industry」( http://gcoe-mi.jp ) という数学の研究会です。かなり高度な数学の内容を、基本的にはゲームへの応用という観点について省いた状態で説明していただきます。「こういう応用がありますよ」という「営業プレゼン」っぽいのではなく、普段通りのありのままを、とだけ注文を出してあります。

二日目にやっていただくのは「ソフトウェアテストシンポジウム」( http://jasst.jp/ )です。「ゲーム業界」よりも、ずっとシビアなソフトウェアの世界、金融のシステムとか、車載コンピューターとかの人である彼らが、どういうふうにしてソフトウェアの品質向上に取り組んできたのか、これからどうするのかを発表して頂きます。

そして三日目は情報処理学会の「グラフィックスと CAD の研究会」( http://ipsj-gcad.sakura.ne.jp/ )です。日本のCG研究の間違いなく最先端におられる研究者の方々による講演です。

どの団体に対しても、ゲームの事を意識しすぎないようにお願いしてあります。自分たちの本業を、「生のまま」話していただきたいんです。co-located event については、http://cedec.cesa.or.jp/2011/event/co_located/index.html を参照してみてください。ここに概要が書いてあって、各主催団体へのリンクも張ってあります。そちらに行くと、もっと詳しい情報があります。

――聞いた側が自分で、「こういう応用があるんだ」って、気づいていくんですね。

CEDEC とは相互入場できるようになってるので、CEDEC 本体に来た人はそちらにも行き、逆にco-located eventを目的に参加される人たちも CEDEC に来て欲しいです。だからCEDECの会場にネクタイした人増えると思いますよ (笑) 。いや、増えて欲しい。
そしてゲームの世界の方も、co-located event参加の方も、お互いに「世の中には、こういう世界の専門家もいるんだ」ということを実感していただければいいですね。

実は CEDEC AWARDS(※21) についても、あえてゲームではないものも優秀賞(ノミネート)として選ぶようにしてます。今年はとくにネットワーク部分で、いわゆるゲーム以外のものが出てますね。石狩データセンター(※22)さんや、岩手日報さんがやってる「 IWATTE 」(※23)などですね。

――意図的にそうされているのですか?

意図的、というのは少し違いますね。CEDEC AWARDS における僕の役割は、「業界を大きく広げる」、「他のジャンルとの交流」、「新しいゲームの可能性を開く」という賞のコンセプトを、ノミネーション委員会の人に説明することなんです。委員会のメンバーは、前年の講演の聴講者アンケートで上位をとった方から機械的に選んでいます。彼らが選んだ結果が CEDEC AWARDS です。もちろんある程度のラインはこちらからも出しますが。

(※18)富野由悠季氏:アニメーション監督。代表作に『機動戦士ガンダム』『伝説巨神イデオン』など。
(※19)國中さん:國中均氏。宇宙科学研究所教授、東京大学工学系研究科航空宇宙工学専門教授。小惑星探査機「はやぶさ」のマイクロ波放電式イオンエンジンの開発者。
(※20)川口マネージャー:川口淳一郎氏。宇宙工学者、工学博士。小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトマネージャー。
(※21)CEDEC AWARDS:CEDEC が主催する、コンピュータエンターテインメント開発の進歩へ顕著な功績のあった技術に与えられる賞。
(※22)石狩データセンター:さくらインターネットが北海道石狩市に建設中の、クラウドコンピューティングに最適化した郊外型大規模データセンター。2011年秋完成予定。(参照 http://ishikari.sakura.ad.jp/ )
(※23)「IWATTE」岩手日報による、個人個人の幸せなニュースを号外化して届けるサービス。(参照 http://iwatte.jp/top/ )

CEDiL の意図

――今年の二月から誰でも無料で過去の CEDEC の講演資料を閲覧できる CEDiL ( http://cedil.cesa.or.jp/ ) を始められましたが、何か苦労した事などはございましたか?

CEDiL は名前こそ CEDEC Digital Library となっていますが、どこにも「CEDEC の講演資料」であるとは書いていません。「今のところ、 CEDEC の講演の資料が多い」というのが正しい認識です。CEDEC が今年で13回目を迎えて、講演資料が膨大な量になってきました。昔は、講演資料を公開するなんてとんでもないという方が多かったのですが、現在は「むしろ公開したい」という方が増えてきました。実際、資料は公開した方がいいんですよ。多くの人に対して話しかけた人間に対しては、それだけ多くの情報が集まってきますから。

CEDiL の近未来の狙いは、CEDEC 関係のもの限らない資料を集約することです。およそコンピューターエンターテインメントに役立つような資料を、全て集めたいと思っています。資料を参照するためのURLもパーマネントなものにしているので、どんどん引用もして欲しいと思っています。

――そのポリシーは CEDEC を運営するときの狙いと似ていますね。

CEDEC 自体がゲームだけというところから、ある意味脱却しようとしている事と、全く同じロジックですね。CEDiLについては、ぶっちゃけると「やってみたかった」というのもあります。過去の CEDEC の資料を全て集めて、とりあえず検索エンジンを積んでみたかった。検索してみて一番驚いたのは僕たち自身なんです(笑)。色々なキーワードで検索してみると、多くの資料の「地図」みたいなものが見えてくるような気がします。これ自体、研究対象になり得るのではないでしょうか。

今悩んでいるのは、CEDiL をどうやって国外に発信していくかということです。英語に翻訳したいんです。でも、あれだけの資料の数が、毎年勢いを増しつつ増えていくという事になると、翻訳の仕方を工夫しないと、絶対に続かないですよ。翻訳作業をする場合、どうやってそれを継続させていくかって言う問題が大きいんです。だからぜひ UEI さんに夢の機械翻訳機を作っていただければなんて… (笑)

本当は「ゲーム業界」に限らず色々な業界や学生さん、あるいは海外の方から、興味の持っている方を集めてコミュニティを作り、参加者同士の知識交換や勉強会みたいなことをしたいんですよね。それによって CEDEC 、CEDiL としては国際化が実現できるでしょうし。ただ翻訳のクオリティのコントロールなどを考えると、また難しい問題になってしまいます。今、悩んでいるところです。

大災害を超えて

――今年度の CEDEC では震災復興に関連した特別なプログラムが実施されるそうですが、開催決定までに至った経緯をお聞かせいただけますか?

僕は岩手の出身なのですが、押し寄せた津波によって知っている町が流されて行く様をリアルタイムで見たんです。この惨事に対して、ゲーム作りに何らかかかわる人間として何ができるかを考えたのですが、被災地に電気が無く被災者の方々がゲームを楽しむ事が出来ない以上「何も出来ない」という結論しか出ませんでした。でも僕は諦めきれず、日本人として「何かしたい」って思ったんですね。

そこで思いついたのが CEDEC という組織でした。CEDEC の大きな特徴の一つは「大きい」ことです。去年は4600人、延べ人数だと約3万人の方が来場されました。その人数を生かして、情報交換の場所として役立ててもらえるのではないか思ったんです。さらに CEDEC はゲームが母体となっているが故に、エンジニアやアーティスト、プロデューサーやサウンドといった具合に職種の幅がもの凄く広いんです。情報以外に関しても、何かを交流する場所として、この特性を役立ててもらいたいんですね。

震災直後には、多くの人が様々なことをやっていました。例えば「ヤシマ作戦」(※24)とか。さらに Amazon や Google 、マイクロソフトなど大手企業も震災復興支援の活動を始めたのを見て僕は感動しました。IT やコンピューター業界の方に関しても、震災に関してできる事をやろうとして Hack For JAPAN (http://www.hack4.jp/) や Project ICHIGAN ( http://www.project-ichigan.jp/ ) のような運動が起こりましたが、彼らは大きな発表場所を持っていませんでした。また、そういうコミュニティに参加していないけれど復興のために何かしたい人はたくさんいるでしょう。そのような人々に場所を提供することが、震災復興セッションの本当の目的ですね。

――震災復興に使われていた技術や発想は、逆にゲーム業界に対しては何かをもたらしてくれるのでしょうか?

まず一つは、エンジニア達が自分の持つ考えやアイディア、技術などの色々な物をもっとアピールする機会になるということです。CEDEC という場で行われるのであれば、参加者の人たちはもっと幅広くそういったものに触れるチャンスが出来る、それだけで色々なインパクトが必ず起きますよ。

二つ目は「シリアスゲーム」というジャンルにおける可能性です。この「シリアスゲーム」という言葉には、言葉が「かっこ良すぎる」という欠点があったんだと僕は思っています。そのジャンルに置かれたところで、「シリアス」という言葉に見合うだけの、深刻さというか「重さ」をも持ったゲームを作る事は難しい。僕たちにとってこれ以上にないくらい「シリアス」だったこの震災を経験した事で、ゲームに真の「シリアス」を与えられるのではないかと思っています。それは、「深刻」というだけの意味ではなくて、これから若い世代の人たちが暮らしていく社会をより良くするためにはどうするか、という意味です。

三つ目は二つ目と関連した事ですが、ゲームに「リアル」を取り戻せるかもしれないということです。今日の日本のゲームは、ビジネスとしては成り立ってますが、イマイチ調子が悪いんですね。技術的な問題もあるのですが、それ以上に「ゲームをモデルにしたゲーム」を作りすぎたことが大きいと思っています。

――いわゆる「メタ」ゲームですね。

それはそれで素敵なカルチャーとしてあっていいとは思いますが、サブカルチャー的ですね。メインではないはずです。日本のゲームは「リアル」を見失っているから、そういうものしか作れないのかもしれない。アメリカで FPS(※25) タイプの作品がどんどん出てきていますよね。彼らにとっては戦争が「リアル」なんです。アフガンへ行って戦ってきた知り合いがいて「俺だって行くかも知れないんだ」と思えるから、そういったゲームが出来るんでしょうね。

つまり、ゲームに「リアル」を取り戻すきっかけに必ずなると僕は思います。清水さんは以前、「ゲームを作った人間は石投げられる覚悟で津波の跡に行け」と仰っていました。それ聞いた時にすごく納得したんですね。僕は岩手の人間だから、来たら「ゲーム屋が何しに来た。ふざけんな」って石投げますよ。それでも行ったらいいんです。多分何の助けにもなりませんよ。でもいつかは必ず役に立ちますから。

もしかしたら、今でいうテレビゲームではなく全く違う種類のゲームかもしれない。でも、なんだっていいじゃないですか。IT のテクノロジーの点においても同じ事だと思います。「僕らにとって何が必要なのか」を、今回ほど真剣に考えたチャンスって無かったと思うんです。震災に巻き込まれた人間にとって、本当に必要だったであろうサービスが多く生まれました。完全ではないにしろ、少なくとも萌芽が生まれた。いくつか例をあげると、一つ目は今回、携帯電話のネットワークがほぼ全滅する一方で、何故か生き残っていたインターネットメールとTwitterですね。デマも流れましたが、あれのおかげで助かった人間は大勢いました。

二つ目は、Google の「 Person Finder 」(http://japan.person-finder.appspot.com/) ですね。あれがどの程度役に立ったのか、まだ数字が出ていないのではっきりとは言えませんが、「人を探す」という意味において少なくとも何かのきっかけになったと思います。

三つ目は、最近始まった「未来へのキオク」(http://www.miraikioku.com/map/) というサービスです。被災地の人が「ここの写真が欲しい」っていうのをサイトに入れるんですよ。そうすると、昔の写真を持ってる人が上げてくれるんです。たとえば「高田松原の松林の写真をなくしました」って書き込むと、「去年遊んだときの写真がありますよ」って返信されるんです。小さいけれど、すばらしい話ですよね。

あと、いいなと思ったのが、Amazon さんの「欲しいものリスト」ですね。リストに入れられた、被災地の人が欲しい物を僕らが見て、それを買って被災地の人に送れるんです。意外なものが出てきて、例えば「クイックルワイパー」が欲しいなんてことも分かるんです。僕らはそういうのが分からないから、適当に古着とかを送ってしまうんです。でも岩手の夏って短いですが、日中は結構暑いので、冬に送ったものなんかはあまり役に立っていないんです。

(※24)ヤシマ作戦:震災直後の原発事故による電力不足がうたわれた際、Twitter を中心に起きた、積極的な節電に取り組もうとする運動。元ネタは『新世紀エヴァンゲリオン』に登場した作戦名。
(※25)FPS :First Person Shooter 。主人公の視点で空間を移動でき、武器や素手を用いて戦闘が行えるようなゲーム。

「日本社会にいること」のメリット

――最後に、広い意味でコンピューターを使って人を楽しませることを目指す若者に対して、CEDEC 、あるいは吉岡さんからメッセージをいただければと思います。

乱暴に言うとすれば、「ゲームばっかやってんじゃねえよ!」ってことですね。ゲームはゲームでやっていいと思いますよ。でも僕らが住んでる日本という国は、実は凄く文化的に豊かな国だと思います。サブカルはサブカルでいいのですが、そのような日本文化のクラシックな所に触れる機会が減っているのが残念です。

――昔のメインカルチャーということですね。

今でも本当はそれがメインカルチャーじゃないですか。古臭いって敬遠するのはもったいない。そういった物に触れてみる機会は持つべきだと思います。富野さんの話とか、以前に基調講演で来ていただいた宮本さん(※26)の話とか聞いてると、彼らは凄いトラディショナルな日本人で、もの凄く真面目なんです。今活躍している、サブカルチャーを第一線で作ってる人も多分皆そうなんじゃないですか?僕は豊かな文化を持つ「日本」という国にいるメリットを生かしてほしいです。

伝統文化に限らず、とにかく目に入った物を「何でも食ってみる」というのは重要なことだと思います。先ほどのクラシックなカルチャーの話や、CEDEC がゲームの枠をなくそうとしている話とか、あるいは震災の話などをまとめると、要するに僕らがもっと「社会」に関わろうってことなんです。社会に出て、考え方の違う人たちと交われば摩擦も起きますし、不条理な事も沢山起きます。でもそれが世の中なんです。ゲームが大衆娯楽だと考えるなら、世の中に触れない限り作れないと思う。文学だって、純文学の賞である芥川賞は、若者でも受賞できますが、大衆文学の直木賞は経験を積んだ大人しか受賞しませんよね。だから大衆娯楽を作るっていうのは、大衆の中で生きる「大人」であることが有利だと思っています。

――本日は貴重なお話をありがとうございました!

(※26)宮本さん:宮本茂氏。「マリオ」シリーズや「ゼルダ」シリーズを開発するなど、任天堂のゲームソフト開発の中心的存在であり、「現代のビデオゲームの父」とも呼ばれる。CEDEC2008 の基調講演に参加している。現・株式会社任天堂専務取締役宣伝本部長。

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