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グッバイIVS 日本最強プレゼンバトル体験記

今日、僕は「インフィニティ・ベンチャー・サミット」こと、通称「IVS」に行って来た。
IVSは年二回開かれているイベントで、いま一番勢いのあるベンチャー企業の経営者たちが一堂に会して行う大イベント。



完全招待制で、参加資格は経営幹部であること。



ただし、他の会員の推薦と本部の承認がなければ聞きに行くことすらできない。

しかもその参加費は10万円以上とかなり高額だ。



それ以外に飛行機代とホテル代がかかることになる。



そしてLaunchPadと呼ばれる、日本でもっとも激しいプレゼンバトルの開かれる場所でもある。

これはそんなIVSに参加し続けた、とある男の顛末記。





昨日、僕は朝早くIVSに参加するため、北海道は札幌に来ていた。

今回はいつもと少し違っていた。



僕は今進行中のenchant.js、そして9leapを中心としたベンチャービジネスを旗揚げするため、イベントとしてのIVSではなく、ベンチャー投資家としてのIVPの面々に自社の事業をプレゼンテーションする必要があったのだ。



しかしその会談は芳しくなかった。



「清水さんの会社・・・UEIが非常に多くの可能性に満ちていることはよくわかっています」



IVPのパートナー、田中章夫は言った。



「しかしねえ、実際問題、やっていることが多すぎて、いったい清水さんが”どれ”をやりたいのかわからんのです」



なるほどそうだろう。

僕の会社、UEIは、いまのところそこそこ上手くいっている零細企業にすぎない。

創業以来赤字なし。毎年売上げは拡大し、人員も増えている。





大手企業の受託開発を中心としたソリューションビジネスでしっかりと日銭を稼ぎ、大企業とコラボレーションした研究開発事業でも多大な利益を得ている。その余ったお金で、Wise9や9leapなど、ちょっと変わったことをしている。



どのビジネスもそこそこの黒字を出し、そこそこの利益を新しいことに投資して資本を循環させている。



預金残高も問題無し。極めて堅調。そう。堅調すぎるほどに。



4月から若いプログラマーを集めて、ARC(アーク)という新組織を作った。

秋葉原リサーチセンター。

大学生を中心とした先端研究専門の部隊だ。

enchant.jsの開発や9leapの運営もここが専門的に行っている。







これがARCのロゴ。



プラトンが古代ギリシャで開いた、アカデメイアに由来してオリーブの枝をあしらい、真ん中にはアカデメイアの入り口に掲げられていたという言葉「幾何学を知らぬ者は去れ」と古代ギリシャ語で書かれている。



僕は技術とは哲学だと思っている。



そして哲学者が開いた最初の学校が、幾何学を大切にしていたという点に非常に惹かれたからこの言葉を選んだ。



現代の幾何学、つまりコンピュータグラフィックスは僕たちのDNAだ。



「僕たちはね、清水さん」



IVPのもう一人のパートナー、小野が言った。



「なにか”これ”っていうものに賭けるってものに投資したいんですよ。それこそ、潰れてもいいけどイチかバチか、勝負するっていうのを応援したいんだ」



僕はなるほどねと頷いた。



「で、いったい清水さんはどれに力を入れてるんです?」



それは自明だった。



「ゲーム事業は外部から優秀な部長を雇い、ソリューションビジネスはずっと以前から別の取締役がきちんと成長を堅持している。僕の見る事業部門は、もっぱら、ARC(アーク)だけですよ」



「アーク、とは?」



「秋葉原リサーチセンター。この春から僕が直轄するUEIの研究部門です。ここでいま、19歳の大学生数名を中心として、9leapやenchant.jsといった事業を進めていてですね・・・」



「清水さんが9leapの中心人物なわけですか?」



「いや、僕はいわば野球チームの監督みたいなもので、実際には全て少年達にやらせています。なにしろ彼らは若くて賢く、馬力もある。僕では考えもつかないようなことを次々と思いつき、実現していくんです」



「清水さん、監督じゃなくてですね、清水さんがこれひとつ、これだけに集中するものってないんですか?」



「だから今は9leapに集中していますよ。ARCとして。そして監督として」



「監督っていうか、プレイヤーでいてもらわないと。他の事業は全部棄ててでも、やることじゃないんですか?」





なるほどそうかと思った。



彼ら・・・ベンチャーキャピタリストは、競走馬を探しているのだ。

どん欲で、前だけを見て、決められたコースだけを走る競走馬を。



競走馬であるベンチャーの社長が、現状の地位にそこそこ満足して、そこそこ楽しくやっていて、その余った利益でチマチマと始めて居るような事業に賭けるつもりはない、ということなのだ。



ベンチャーキャピタリストのビジネスとは、とどのつまり、馬主だ。

いくつかの馬を同時並行的に育てる。ある馬はうまく成長するかもしれない。

別の馬は失敗するかもしれない。



しかしそれぞれの馬は、自分の走るコースを決められていて、それ以外の道を走ることは許せない、というわけだ。



彼らにとってみれば、馬は死ぬほど愚直にただひたすらに走り、IPO(株式公開)まで走り切ってくれさえすれば、あとはどうでもいい。



4年後にまったく消滅しているようなビジネスであっても2年でIPOして株を高値で売り払ってさえしまえば、残った社員の運命など関係ない、というわけだ。



口ではいろいろと言っているが、結局ベンチャーキャピタルのビジネスというのはそこにしかない。

もちろんそれは解っていたことだ。

それでもIVPは違うのではないか、と思っていた。

しかしそれは僕が甘かった。



僕が思い描いているのは、緩やかだが持続的な成長だ。



大量のリソースを割き、金の論理で札束でいろいろなものの横っ面をひっぱたき、大量の人員をせーので投入して、無茶なノルマを押しつけ、後先考えずに押し売りしてみかけだけの「急成長」を遂げる会社を作ることではない。



そんなことのために、僕は会社を大切にしてきたわけではないのだ。

社員の誰もが・・・社員だけでなく、取引先やパートナー企業の誰もが、UEIと関わることを胸に誇れるような会社を作りたかった。



80年代のNASAのようにね。



しかし生粋のベンチャーキャピタリストというものは、考え方が根本から違うのだな、と諒解した。いや、本当をいえばこれはずっと以前から解っていたことだ。



僕は個人的に、IVPの三人が好きだった。

だから、解ってほしかった。しかし時間の無駄だった。ただけそれだけだ。

誰が悪いというわけではない。



単なる価値観の違い。



男と女じゃよくあることだ。

時には男同士でも。



僕にとって時間の無駄だったわけではない。彼らの貴重な時間を無駄にしてしまった。

単にビジネスに対する態度と考え方の違いだ。



申し訳ない、と思った。



「了解。ビジネスに対しての考え方の違いですね。時間を無駄にさせて申し訳ありません」



僕は机を蹴った。

もちろん、本当に蹴ったわけではない。象徴的に机を蹴った。



交渉は決裂。というか、交渉をする以前だった。



IVPの立場が僕たちとどう違うのか。



ひとつの例として、彼らはグルーポンジャパンに投資している。

グルーポンジャパンはまさに資本の論理で急成長している。毎週100人の社員を登用しているとか、売上げが倍増しているとかビジネス界での評判は高い。



しかし同時にいびつなビジネスモデルを押しつけ、問題も多い。

今年の正月に起きた、腐ったおせち料理を送りつける事件は無数にあるいびつな構造のひとつにすぎない。



もっとも、おせちでは死人が出ていないだけ、まだマシなのかもしれない。これが万が一、生肉だったら・・・考えるだけで恐ろしい。



こういうビジネスを良しとする人たちと、確かに僕は根本的に考え方が合わないのだろう。



IVSは、そしてIVPは、かつてはとても魅力的な場所だった。

TwitterやUstream、Facebook、日本の誰も知らない頃に経営幹部を招き、セッションをおこなっていた。



それだけでなく、科学者や芸術家、登山家など多彩な顔ぶれが集い、激論をかわす姿は、ひとつのショウとしてもよくできたものだった。



しかし時代の変遷とともに、IVSは変質し、即物的なビジネスの話ばかりになった。

僕の目から見て、セッションは次第に色褪せ、ついには僕は全くセッションを聞きに行かなくなった。



それでもベンチャー企業の社長連中が一堂に会する機会は得難く、彼らと交流を深めるためだけに参加する参加者も多い。



僕もいつのまにかその一人になっていた。

とはいえ、IVPと価値観が根本的にあわないこともハッキリした。

二度と来るまい、と思った。

しかしひとつだけ心残りがあった。



LaunchPad(ランチパッド/発射台)。



各社選りすぐりの新製品をわずか6分で発表し、そのプレゼンを競うという大会。

僕が知る限り、日本国内でもっともハイレベルなプレゼンコンテストだ。

このわずか6分間に各社が全力を出し尽くす。



ビジネスプレゼン界のF1と言ってもいい。



なにしろ一つの製品をLaunchPadで喋っていいのは一回だけ。

「新製品」または「新技術」に限る、というわけだ。



いつしか僕はLaunchPadだけがIVSに参加する唯一の理由になっていた。

最初に参加したとき、僕は審査員として参加し、そのプレゼンレベルの高さに驚いた。



控えめに言って、僕はプレゼンが得意だ。

20歳の頃から専門学校で丸一日喋っていたし、マイクロソフトのイベントの仕切り、各地での講演、大学での講師、サラリーマン時代に企画のプレゼンで負けたことはなかった。



しかしそれでもこのIVSのLaunchPadのプレゼンの前では、僕はまったく、勝てる気がしなかった。

審査員を終えたとき、僕に湧いた次なる感情は、「この舞台で勝ちたい」というものだった。



LaunchPadは、たった6分間で総ての説明を終えなくてはならない。



しかも審査は、リアルタイム。



総てのプレゼンが終わってから点数や順位を吟味して入れるのではなく、審査員のその場の感動や驚きで点数が絶対的に決定される。



つまり、完全にその場を支配した者だけが、この狭き門をくぐり抜け、勝利の証として、スポンサーのブライトリングから提供されるクロノグラフをその腕に巻くことが許されるのだ。



そして僕はさっそく、その次のLaunchPadに申し込んだ。



6分で言いたいことが総て言えるように、なんども訓練した。

英語プレゼン以外で、事前に何度も訓練したのは後にも先にもこの時だけだ。



結果は三位。



それでも驚いた。

そして壁の厚さを思い知った。



それから、常にIVSのLaunchPadに出続けた。

いつかは優勝。



しかしいつのまにか、僕はランク外の常連になっていた。



「LaunchPadの名物男」



そう紹介されるのも当たり前のようになった。

LaunchPadが終わると、田中タイセイはいつも言った。



「今回こそシミっちゃんが優勝だと思ったのに」



西山圭も言った。



「清水のプレゼンは芸として完成され過ぎていて審査員が点数を入れられない」



橋本裕之も言った。



「惜しかったね」



どれも見え透いた慰めだ。



「なあに、LaunchPadで優勝した製品で、実際に成功した製品などひとつもないよ」



僕はそううそぶいた。

これは事実だったが、見え透いた負け惜しみであることもまた隠せないことだった。



結局、初出場で3位をとって以来、まったく受賞されなくなった。



「LaunchPadの箸休め」

「トイレタイム」



そんなことも言われた、ま、間違ってなかった。



そのうち僕は、いったいぜんたい、なぜここに立っているのかわからくなった。



いつか優勝するため?

でも全く箸にも棒にもひっかからない。



これだけ出場していると、さすがに審査員も警戒してくる。



そして今回が最後。心に決めていた。

もうどうにでもなれ、と思った。



実を言うと、今回のプレゼンは、僕が最も手を抜いたものだ。



夜三時まで、十年来の知己であるインデックスの樋口由美子の愚痴を聞き、途中から合流した慶應の稲見先生と認識論について酔っぱらい談義を醸した。



それから朝起きるまで、僕はプレゼンの内容について一切考えなかった。



僕が今回、説明するのは、enchant.js。

ARCの、19歳の少年プログラマーチームの「監督」としての僕のデビュー作だ。



enchant.jsは既に上手く行っている。

だいたい、僕はこのLaunchPadでは既に上手く行っている製品か、全く売る気のない技術しか説明しないことにしていた。



真面目に技術を開発したのは初参加の時だけだったが、そのとき作った技術はついに製品化されていない。



ジンクスはわりと真実なのだ。



enchant.jsは素晴らしい技術だ。

若い才能と、伝統的なゲーム制作手法が完璧に融合した、まるで奇跡のような技術だ。



エレガントでパワフル、そして無限の可能性を秘めている。まさに若き少年達の情熱の象徴である、ARC(アーク)そのものだ。



enchant.jsをenchant.jsたらしめているものはARCであり、ARCをARCたらしめるのは、enchant,jsなのだ。



僕はこの開発に一切の関与をしていない。それが最善だ考えたからだ。



人間の能活動のピークは22歳。

そして27歳を過ぎると脳は衰え始める。

僕はもう34歳。若くはない。

あとは下り坂を真っ逆さま。



より良い結果、より正しい成果を得るためには、若く才能あふれる少年達にできるだけ多くの刺激と経験を与え、目標を与え、時には悩みに答え、時には叱咤することで彼らが新たなチームワークに目覚め、ただ一人で黙々とプログラムを組むよりも遥かに大きな成果を生み出すことができるはずだと考えた。



そのためには、彼らに足りないもの・・・それは経験や資金や正しい見識といったさまざまなものだが・・・・そうしたものを与え、またそれが与えられるという立場にのみ、僕の存在意義はあるのであり、僕は自分が22歳の時にどうやって働いたのか、そのとき僕の上司や社長はどうしたのか、そういうことをやるべき立場にいまあるのだと言うことを自覚したのだった。



僕はもうプレイヤーをやるべきではないのだ。



そして、キャプテンが監督を兼ねる高校も強いかもしれないが、名伯楽が若者達を叱咤激励することで強くなるチームもまたあるのだ、ということを自らの手で証明しなくてはならない。

そのためのARCだ。



これは取締役会で無理を言って、僕を先端的研究活動に専念させてくれるように説得し、実現した組織だ。



僕がenchant.jsに対して果たした功績は、まったくとるに足らないものだった。



ある日、田中諒くんと高橋諒くん、そして伏見遼平くん、三人の19歳の若者にファミリーベーシックを見せて、「これをJavaScriptで表現してみないか」と言っただけだ。



そのあと、田中諒くんが黙々と開発し、高橋諒くんはそれを使いこなしてマップエディタを造り、伏見遼平くんは9leapを立ち上げた。



できあがった成果は、息をのむほどだ。



僕はこれをできるだけ魅力的に表現するだけだった。



朝8時。

リハーサルの最中に、ようやく僕はプレゼンを書き始めた。



なぜ、若者を集めようと思ったのか。

なぜ若者でなければできないのか。

そしていかにそれが魅力ある技術なのか。

ただ黙々と、それを書いた。



あらかた書き上げてしまうと、僕はパタンとMacBookAirを閉じた。



気がつくともうLaunchPadが始まっている。

これで最後になるかもしれない。



いろいろな思いが去来した。

いままでは僕が考え、僕が作った製品を紹介する場としてこのLaunchPadを利用して来た。

しかし今日は、みんなが造り、みんなが育てた技術をこの場で発表するということになる。



入賞は全く望めない。

しかし精一杯、やるしかない。



 「清水さん、次です。スタンバイしてください」



係の女性が僕を壇上に誘った。

LaunchPadはステージの左右でダブルバッファリング方式で次々とプレゼンを行っていく。

ひとつまえのプレゼンが反対側の袖で行われていた。



それは、FlashLiteをスマートフォンに移植するエンジンの紹介だった。

それを見て、僕は突如、なんだかいい知れない怒りのようなものを感じた。



いったいぜんたい、なんなんだ。

Flash Liteで作られたゲームは無数にある。まあ軽くいって100万本くらいあるかもしれない。



しかしそれは、全世界的にみると、この極東の島国、つまり日本にしか存在してない。

米国のAdobe本社はFlash Liteの存在をほとんど無視している。

しかもスマートフォンだ。



iPhoneを除くたいていのスマートフォンでは、Flash10がそのまま動作する。

なにが悲しくて、この2010年代に劣化版のFlash Liteなんかをスマートフォンで動作させなくてはならないのか。



しかもiPhoneには政治的に対応できない。



ハッキリ言って、Flash Liteなんか終わってるのだ。

過去の遺物。時代に逆行する技術。こんなものをゾンビのように生きながらえさせ、無数に存在する劣悪な作品の数々を21世紀が10年も経った今、まだ使おうというのか。



実際、こういう商売をしていると、「Flashゲームを毎月10本提供します」みたいなわけのわからない営業メールが来る。



ゲームの内容もへったくれもあったものじゃない。

彼らはゲームをボーキサイトかなんかだと思っているのだ。



ゲームが面白いとか、ここが工夫しているとか、ここが見所だとか、作り手の気持ちは完全に中和されて、ただ、「一本、二本・・・」と数えられる原材料としての「ゲーム」



魂の入らない、抜け殻のようなゲームが毎月10本、全く同じものが日本中の会社に提供され、日本中のサイトが全く魂の入らないゲームを毎月遊び続ける。



一体全体、これはなんのためにやっていることなのだ。



Flash Liteは、ハッキリ言って人類にとって負の遺産でしかない。

僕は脳裏に、プログラマー達の顔が浮かんだ。



「清水さん、またFlash Liteでプログラミングさせるんですか・・・」

「これ、とてもまともな言語とは呼べないですよ。勘弁して下さい」

「なぜFlash 10じゃだめなんですか」

「配列すら使えないんだけど」

「次にFlash Liteのプログラミングをさせるなら、僕は会社を辞めます」



こらえてくれ、と何度頭を下げたかわからない。

こんなもの、まともなプログラマなら誰も触りたがらない。



勉強するのもデバッグするのも、単なる時間の無駄だ。

その後の人生に全く役に立たない。



古代ギリシャ語を勉強するようなものだ。

ギリシャ人ですら、今では誰も発音すらできない。



誰ひとりとして、Flash Liteを使い続ける限り、幸福にならない。

それでもただ、「普及してしまっている」というただ一点の理由のみによって、日本中のケータイ開発会社のプログラマーが、Flash Liteに苦しめられている。



こんなものは技術の放射能廃棄物だ。

スマートフォンに脱皮すると同時に捨てるべきものだ。



世の中の流れは、誰がどう考えてもHTML5にある。



毎月10本って、どれだけクソゲーが好きなんだよ。

もうみんな、Flash Liteで作られたようなクソゲーを作りたいのなら、いっそHTML5で作ってくれよ。

そのほうがずっと世の中のためになる。



そう思って、僕はその場でプレゼンを書き換えた。



9lepaに寄せられているenchant.jsを使ったミニゲームも、市販されているゲームのような凝ったゲーム性が用意されているものは少ない。見る人によっては「クソゲー」と映るようなこともあるだろう。

一見しただけでは、Flash Liteで作られたミニゲームと、enchant.jsで作られたミニゲームは、素人目には区別が着かないだろう。



しかし両者は全く別モノだ。

比較されることすら失礼だと思う。しかしすぐには違いがわからないだろう



確実に言えるのは、enchant.jsで作られたゲームは、いまのところ、100%、作ることそのものが楽しいからこそ作られたゲームだということだ。



それで出来上がるのがたとえクソゲーに見えるとしても、熱い魂の籠った、愛のある作品なのだ。

一本二本と、ボーキサイトやナフタリンのように数えられるゲームではなく、それぞれが「作品」と呼ぶに相応しいような、愛情溢れる逸品なのだ。

それが根本的に、Flash Liteとは違う。

なにかちょっとしたものを作るのでさえ苦痛を感じるFlash Lite。仕事でなければ絶対に、仕事であってもなるべく関わりたくない、そんなものとは裏腹に、enchant.jsによるゲームプログラミングは圧倒的に楽しい。



とはいえ会場に来ている経営者連中というのは、控えめに言ってもそんな技術者の感じる楽しさだとか、面白さだとか、そういう情感など理解できない。



enchant.jsのソースを見ても、なにが美しいのかすら理解できないだろう。コードに対する美的センスなど、誰も持ち合わせてはいない。

だから彼らの水準にあわせて説明する必要がある。



そこでenchant,js、そしてそれをベースとしたアトラスXを使ったプログラミングがいかに簡単で面白いか、ライブコーディングをすることにした。



この程度の曲芸はちょっと腕に覚えのあるプログラマなら誰でもできることだ。



フィボナッチ数列やクイックソート、エラトステネスのふるいなど、一分間で書けるコードはいろいろなパターンがあるが、そんなものをやってもプログラマでない人間には理解できないから、おみくじを作ることにした。これから小学生でも理解できるだろう。能が衰え始めた27歳以降の世代も同様だ。



時間配分からいって、コーディング時間は1分。

壇上でそこまで決めた。



金儲けのためだけに作る魂の抜けたゲームも、腐ったプログラミング言語もどきの環境も大嫌いだ。

会場の全員を敵に回しても、僕は言い切ってやる。HTML5こそが本当のユビキタスエンターテインメントだと。



それ以外は全部過去の遺物だ。

さあ来い。かかってこい。



こっちは準備万端。覚悟完了。当方迎撃の用意アリ。



そんなわけでプレゼンが始まった。



Video streaming by Ustream
プレゼンが終わるとすぐに僕は地下にある大浴場に向かった。



なにしろ寝てなかったし、風呂に入る時間すらなかった。

それに会場の全員に喧嘩を売って、その場にいるのがいたたまれなくなった。



どうせ今回も選外さ。



そううそぶきながら大浴場に行くと、なんとまだ空いてなかった。

それですごすごと控え室に戻り、控え室のテレビで会場の中継を見ていた。

会場はWiFiの電波が飛び交っていて、全く繋がらない。



要するにITベンチャーキャピタルを標榜しながらもその程度の見識しかないのだ。IVPは。

これがごく簡単な工学的問題で解決できるという知識も教養もない。10回もこれを開催しておきながら、解決の意志すらない。



控え室だけは人がいないのでネットは快適だった。

それで完全に受賞を投げた僕は、一人Twitterを眺めたりして時間を潰した。

会場では、審査の集計中に審査員の一人であるKLabの真田さんが講評を求められていた。



 「いやー、今回、UAEの清水さんが良かったですな。製品の内容はよくわからないけど。成長したねえ、清水さん」





Video streaming by Ustream

UAEはアラブ首長国連邦で、うちの会社はUEIだよ、とTwitterでツッコミを入れた。

真田さんはいつも笑顔を絶やさないという点ですごい経営者だ。

経営者というのは、ほっとくと不景気な仏頂面になるのである。



しかし真田さんはそうではない。

だから彼を慕って、KLabの社員はもちろん、KLabを辞めた社員たちも、真田さんのまわりに集まるのだ。



彼は権力者ではないけれども、非常に多くの人に好かれるタイプの経営者だ。

今回のプレゼン中、一番笑ってくれたのは真田さんだった。

僕は真田さんが評価してくれただけで嬉しい、そう思った。



しかしこういうときって、要するに人情的な評価であってね、得てして実際のプレゼンの評価にはならないんだよね。



それでもまあ、今回の出来とenchant.jsのポテンシャルから言えば、4位か5位くらいにはひっかからないかな、という淡い期待がなかったといえば嘘になる。



というか、下位入賞くらいしてくれないと監督として頑張ってくれてたARCの少年達に申し訳が立たない。



しかし5位も4位もうちとは関係のない会社が受賞して、いよいよ僕は辛くなった。



東京に帰ったら、みんなまた見て見ぬフリをしながら、慰めの言葉をかけてくれるのだろうか。

でももう僕は二度とIVSにも、LaunchPadにも来るつもりはない。



それに昨日は夜遅くまで稲見先生と飲んでいたから、少し眠い。ちょっと部屋にもどってチェックアウトまで眠ろうか。



そう思ったとき、控え室のテレビが1位の受賞者を告げた。



 「LaunchPad、堂々の一位は、enchant.js! ユビキタスエンターテインメント!」



えっ!?

わけがわからなかった。



周りを見回すと知った顔が何人か、控え室でサボっていて「ほら、清水さん、行かなきゃ」と笑顔を向けた。



 「あれ?清水さん??どこ行ったの?清水さーん?」



テレビから戸惑う司会者の声が聞こえる。

僕はあわてて会場に舞い戻り、会場の後ろから大声をだした。



 「やあ、ごめんごめん。僕は受賞しないと思ってたからさ」



そして壇上へ。




それで僕はいろんなことに申し訳なく思った。



だいたい、これを作ったのは僕じゃない。

田中諒くんであり、高橋諒くんであり、伏見遼平くんだ。それに慶應の伊藤君と、電通大の杉本君もかなり貢献している。



しかしながら、彼らを代表して、まずはこの栄誉あるトロフィーを最後の最後に貰えたことを、とりあえずは喜びたい。



マイクロソフトとAdobeから、本当に沢山の賞品をいただいた。



特にマイクロソフトからは、40インチのテレビにXbox360とキネクト、WindowsPCとVisualStudio、マグカップとかその他いろいろ頂いた。



たぶん絶対つかわないであろうAzureのチケットも。これは水野君にあげようか。



しかし残念ながら僕はもっと大きい3Dテレビを持っているし、ARCにも55インチのテレビがあるから、40インチのテレビなんてのは必要ない。うちの会社にゃPCだって売るほどある。



ここで頂いた製品は、ぜんぶ9leapの賞品として、マイクロソフトの協賛という形で使わせて下さい、とお願いしたところ、快く承諾してくれた。



とりあえず6月1日からの9Days Challenge #2の優勝賞品として、「40インチテレビ」を出すとしよう。



Adobeさんからは別途9leapに協賛してもいいというお話をいただいているので、それもいずれ実現するだろう。



優勝したことよりも、9leapに使える協賛品がたくさんもらえたことが嬉しかった。


http://techwave.jp/archives/51667612.html
腕時計だけは、僕はしないので、これはARCか本社に盾と一緒に飾っておくことにしよう。

なにより時計よりも箱のほうが立派だしね。




授賞式のあと、審査員のひとりだったコロプラの千葉功太郎に会った。



 「清水さん、おめでとう」

 「いやー、どうもありがとう」

 「実はさ、おれと真田さん、”これは他の誰も点数入れないだろうけど、俺だけは満点をあげよう”って思って5点入れたんだよね」

 「そうなんだ。おかしいと思ったよ」

 「ところがさ、どうもみんなそう思ってたらしくて。聞いた?点数。50点満点の47点だって。滅多にでないらしいよ」

 「マジで!?」

 「みんな”ここらで清水に花もたせてやろう”って気持ちがさ、なんか一致したっぽいんだよね。あれで」

 「なんだそりゃ!」



そこですかさずインデックスの樋口由美子が言った。



 「じゃあみんな清水くんのプレゼンはともかくと思いながら、清水くんに花を持たせてやろうって思って満点入れたの?」

 「そういうことだね」



それで三人で顔を見合わせて、わっはっは、と笑った。

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