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たった9時間でド素人のサラリーマンがゲーム開発を覚え、作り出す超革命的開発手法

広々としたロビーの中央。円形の受付で、クリームイエローのコスチュームに身を包んだ受付嬢が、「こちらです」とうやうやしく僕たちを導く。
他の来訪者たちがエレベーターに長い行列を作るのを尻目に、役員専用エレベーターで見送られる。





目的階に着くと、エレベーターのドアが開くと同時に美しい秘書が頭を下げた状態でお出迎え。
そして僕たちはいつもと同じように「役員室」と書かれた個室へと誘われる。

僕の住む家の倍以上も広いその個室は、眼下に東京湾を見下ろすウォーターフロント。
クリエイティブを頂点まで極めた男たちだけが独り占めできる景色。



“彼”はいつもと変わらず紫煙をくゆらせながら、気さくな空気を纏っていた。
鏡明。プロレスラーにしてSF作家。そしてCMクリエイターを経て電通顧問となった今も、週末のない生活を続けている。

僕はジーンズにクロックスで、彼の前に陣取り、世間話を始めた。

一人、また一人とスタッフが集まり、会議がようやく会議らしいていをなしてきたのを見計らって、僕はおもむろに暖めていたアイデアを話した。



 「それは・・・・」




しばらくじっと聞いていた人材開発担当の金原女史が、まず口を開いた。



 「さすがに難しいんじゃあ・・・」


 「いや、出来ると思います。電通マンが優秀なら」




僕は言った。



 「そういう優秀さと違うしなあ・・・」





別のスタッフが腕を組み、空を仰ぐ。
さすがに今回の提案は度肝を抜いてしまったようだ。



 「大丈夫ですよ。9時間。それだけあれば、十分です」

 「本当にそうですか?そりゃ清水さんには簡単なんでしょうが」

 「大丈夫ですって」





僕は言葉を重ねた。
電通という会社で、僕は幾度か研修の講師としてかり出されて来た。
選りすぐられた20人に、ゲームの開発手法を教え、企画書の形にして提出させる。

しかし今度は違った。



 「無理でしょう。だってズブの素人ですよ。そういう連中がいきなりプログラミングを覚えてゲームまで作るって言うのは・・・」

 「しかもたったの一日でしょ?」

 「一日じゃない。たった9時間だ」





これまで僕は数々の研修を行って来た。
確かに、これほど短時間でプログラミングそのものを教えたことはない。
けれども彼らならできるという確信めいたものが、僕の心のどこかにあった。



 「できます。できるはずです」





言葉を重ねる。




 「・・・・と、清水さんはおっしゃいますが・・・鏡さん、どう思われます?」





電通では、たとえ平社員であっても、誰々部長とか、誰々役員、などと相手を呼ばなければならないというしきたりがない。
どれだけ偉くても、最終的には「さん」と呼ぶ。こういう文化を僕はとても好ましいと思っている。
肩書きは仕事の種類をあらわすに過ぎない。



 「・・・鏡さんなら、解ってくれますよね?」





僕は彼を見た。
鏡明はタバコを灰皿に押しつけ、一瞬ちらりと僕の目を見た。
その眼光は刺すように鋭く、まるで研ぎすまされたフェンシングのサーベルが僕の眼前数センチに迫ったかのような迫力があった。
僕は背中にひやりと冷たいものが電撃のように走るのを感じた。

しかしそれもほんの刹那のことで、気がつくとすぐにまたいつもの昼行灯に戻っている。



 「おれはよくわかんねえけど」





彼は言った。



 「やってみればいいじゃないか。清水さんの言う通りに」





それで決まった。
選び抜かれた20人の電通マンに、たった一日でプログラミングを教え、彼らにゲームを作らせる。
サイは投げられた。





それから数ヶ月。
あっという間にその日はやってきた。

5月15日。
午前9時30分。戦闘開始だ。

もちろん僕とてボーッとしていたわけではない。

たしかに一年前なら、こんなことは思いつきもしなかっただろう。
しかしwise9を運営してきた経験から、僕にはある確信があった。

それは、JavaScriptに適切なラッパーを用意すれば、ゲームプログラミングのかなりの部分を省略し、本質に集中できるということだ。

いつものように、ゲームの作り方を説明する。

そしていざプログラミングの説明という段になって、僕は大胆な提案をした。
それは、この研修のために開発した独自のゲームプログラミング言語を紹介し、今日の作品はそれのみを使って作る、ということだ。



この独自のプログラミング言語を、僕はSF作家でありCMプランナーでもある鏡明氏にちなみ、「アトラスX」というコードネームで呼ぶことにした。



アトラスXはJavaScriptをベースとしているが、その制御構造は非常に簡単だ。

scene1 = function(){
    シーン開始();
    台詞("ようこそ私の研究室へ");
    一時停止();
    台詞("私の名は<font color=#yellow>ドクター・バナナ</font>");
    一時停止();
    台詞("私は長年、肉食系人間と草食系人間を研究しとる");
    一時停止();
    台詞("今日は私の研究の成果を使って");
    台詞("キミがどちらのタイプか調べてみよう");
    一時停止();
    台詞("これから私がいくつか質問をする");
    一時停止();
    台詞("全て直感で、すばやく答えてほしい");
    一時停止();
    台詞("準備は良いかな?");
    選択肢("OK",scene2);
    シーン終了();
};

scene2 = function(){
    シーン開始();
    台詞("好きな色は?");
    一時停止();
    選択肢("<font color=red>赤(あか)</font>",scene3);
    選択肢("<font color=blue>青(あお)</font>",scene3);
    選択肢("<font color=green>緑(みどり)</font>",scene3);
    選択肢("<font color=yellow>黄(きいろ)</font>",scene3);
    選択肢("<font color=#999999>黒(くろ)</font>",scene3);
    選択肢("<font color=#white>白(しろ)</font>",scene3);
    シーン終了();
};

これが超革命的プログラミング言語「アトラスX」用のソースコードだ。
JavaScriptをベースとして、日本語命令を大胆に取り入れたプログラミング言語である。

基本的な命令は「台詞」「一時停止」「選択肢」「画像」「シーン開始」「シーン終了」の6種類だけ。
しかしあくまで中身はJavaScriptであるため、やろうと思えばJavaScriptの機能の総てを使うことができる。

enchant.jsベースであるため、クロスプラットフォームでPC/Mac/iPhone/Androidの総てで快適に動作する。

これくらい単純化されていれば、覚えることは極端に少なくなるため、わずかな時間でもゲームプログラミングを体験することができるようになると考えた。

一時間の講義のなかでアトラスXについて説明したのはわずか15分



それで、さっそく第一の課題、「アトラスXをつかった自己紹介プログラムの作成」を全員が難なくクリアー。
電通マンの適応能力の高さを見せつけた。

プログラミングの補佐として、今回、wise9編集部からリョウヘイ、enchant.jsの開発者である田中諒くん、神田くんの三人がティーチングアシスタントを担当した。

そしていよいよ本番開始。

5ジャンルの中から早い者勝ちで選んだテーマを20人それぞれが独立して作ることに。

デッドラインは7時まで。

全員が必死に慣れないプログラミングを時間ギリギリまで組み続ける。

そして発表。
さすが電通マンというべきか。



力作や怪作が多数作られた。



非常に秀逸だと思ったのは、脱出モノゲームの習作ともいうべきこれ

謎のビルからの脱出をテーマにしたこのゲーム。
脱出ゲームでありながらスピード感に溢れている。

ゲーム中には表示されないが、ゲーム中に遭遇したものがエンディング時になって走馬灯のように蘇る(プレイヤーはそこで初めてその写真を見る)という演出は秀逸。



さらに、時間内なら社外に出てもOKという制約から、町中に出てゲームの登場人物をその場でナンパして調達する例も多かった。
このあたりはさすが電通マンというべきか




個人的に最も困ったのはこれ

ある日、とつぜん”オンナ”に目覚めてしまった5円玉が、様々な彼氏を求めてさまよう物語。
非常に完成度も高く、面白いのだが、エロすぎてどうしよう、という感じだ。



最後の講評。
今回の講義の準備に立ち会ったスタッフ達は口々に「まさか本当に一人の脱落もなく完成するとは」と驚きを隠せなかった。

実際、今回の受講者でプログラミング経験があるのはわずか一人、しかも大学で学んだだけで、もうとっくに忘れている、という人だけだった。
その全員が、なんらかの形で自らの考えをプログラムとして表現したことは、彼らが新しい表現手段をひとつ手に入れたということを意味する。





しかし今回の非常に難しい決定をした鏡氏、開口一番、驚きの言葉を口にした。



 「まさか一人も脱落しないとはなあ・・・」





涼しい顔で恐ろしいことをいう人だ。
選び抜かれたエリートである彼らにとって、社内研修で脱落するなどあってはならないことだ。屈辱以外のなにものでもない。



 「正直、ついてこれるのは半分くらいだと思っていた」





そして全員をねぎらい、講師やスタッフをねぎらい、彼の話は終わった。



終了後、多くの参加者と話をする機会があった。



 「プログラミングとか正直、やったことなかったけど、とても面白かったです」





参加者は口々にそう語った。
それはそうだろう。

僕は内心そう思った。



プログラミングは面白い。それは疑いようもないことだ。
なぜならそれが面白いからこそ、僕はいまここにいるのだ。
人生の総てを捧げても良いと思えるほどに。



今回は非常に短時間ではあったけれども、「アトラスX」というツールを媒介として効果的にプログラミングの道の入り口に立たせることができたと思う。

こういうツールはゲーム開発の間口を広げるのに非常に有効なのではないか?と我ながら思った。

そして、電通のクリエイティブな人びとが自らのクリエイティビティをぶつけるキャンバスとして、テレビ画面や絵コンテやポスターだけでなく、コンピュータスクリーンやスマートフォンの画面をその選択肢にいれてもらえたら、それはとても嬉しい。



この「アトラスX」をもとにenchant.jsの公式な簡易ゲームプログラミング言語として完成させていこうという話も、既に田中諒くんとしているところだ。



誰でもゲームを作って発表できる時代が、もうやってきたのだ。

アトラスXは9leapで公開しているので、誰でもこれを使ってゲーム作りを始めることができる。
詳しい解説はこちら

注釈:
 これのどこが「超革命的開発手法」なのか、という野暮なツッコミがあったので補足すると、平井和正の超革命的中学生集団という小説に登場するプロレスラー、アトラスXこそが若き日の鏡明氏であり、このシステムの名前とこのブログのタイトルはそれにちなんでいる。

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